「自閉症は障害であって治らない」とよく言われるのですが、この本は「治療」となっています。自閉症を乳幼児の段階で疑ったり診断した場合、できるだけ早く療育プログラムを開始すると、改善がみられることが知られています。それを段階的に広く網羅したのがこの本です。ABA(応用行動分析)に基づいて自閉的な傾向を生かしながら、徐々に自分と外の世界をつないでいく指導が示されています。内容の断片を見れば、ほかのABAの本と同じようだと思うかもしれませんが、早期療育のパッケージとして、「治療」として段階的な子育てを提示してあるところがすごいのです。この本からもわかる通り、自閉症教育の重要な時期は6歳までで、小学校に入学してからでは、少し効果が薄らいでしまうようです。あー、だから、乳幼児教室や幼稚園や保育園の時期の特別支援教育をどうにかできないか、と思うのです。
翻訳の中野先生は行動分析学の大御所でいらっしゃいました。学会でお会いした時に、何も知らない私は、ロヴァス法を知りたいけれど、日本語訳がないと難しいと、質問したことがあります。もうすぐ私が翻訳を出版しますからとおっしゃっていました。出版されたら、厚くて1万円を超えるすごい本で、やっぱり!と思いました。しかし、今から思えば、これはロヴァス法のエッセンスの一部ではないかと思います。自閉症だけでなく、乳幼児期の公教育の充実で、解決できる社会問題は、他にも虐待、愛着障害の予防などの家庭問題、貧困問題などあると思います。
900ページですが内容は実践本なので、難しくなく、興味のある部分からでも読むことができるので、おすすめです。